ダメ男が、他者に思い至るまで。『永い言い訳』
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世の中には様々なダメ男がいます。
自信過剰なプライド高い系男
大きい事言う割に努力しない口先男
自分に自信のないネガティブ思考男
金銭感覚の狂ったギャンブル男
浮気・不倫に手を染めてしまうクズ男
その他にも様々な種類のダメ男がいるでしょう。
そんないろいろなダメ男を映画を通じて紹介していくコラム
いよいよ、今回1発目となります。
改めまして、担当は、学生応援団の地味ダメ男こと
です。よろしくお願い致します。
存在感が薄すぎるからでしょうか。
先日、目の前の自動ドアが開きませんでした。(そういうことよくありますよね。ないですか。僕はよくありますよ。)
この自動ドアはきっと故障中なのだろう
あるいはコバヤシは人智を超えた存在に違いない
さて、記念すべき1回目の映画は・・・
です。
伏線の張り方が神がかり的ですね、ええ。
◇監督 西川美和
◇出演 本木雅弘 深津絵里 竹原ピストル 堀内敬子
2016年に公開された、西川美和監督によるヒューマンドラマ。
西川監督は、パルムドールを獲得された是枝監督の愛弟子としても有名ですよね!
小説家としても活躍されており、ノベライズ版の「永い言い訳」は直木賞候補になるほど、才能溢れた方なんです。
映画も面白い、小説も面白い。
天は二物を与えましたね。ジェラシーしか湧きません。(余談ですが、映画を撮っている小林は、西川作品の影響をめちゃめちゃ受けています)
西川監督への嫉妬と愛に狂う小林の第1回コラム、早速本題に入っていきたいと思います!
* 以下、ネタバレあり
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○ダメ男は、「鏡」を殴る。
最初に言っておきたい。
この映画、かなり最強レベルの「ダメ男」が主人公です。初回から手強い。手強すぎる。主人公を演じた本木雅弘、恐るべしです。
まず、ざっくりとあらすじから確認しましょう。
人気小説家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)の妻で美容院を経営している夏子(深津絵里)は、バスの事故によりこの世を去ってしまう。もっとも、彼女のいない間に、福永智尋(黒木華)と不倫行為に没入していた幸夫にとっては、さして悲しい出来事ではないのが実情だった。そんなある日、幸夫は夏子の親友で旅行中の事故で共に命を落としたゆき(堀内敬子)の夫・大宮陽一(竹原ピストル)に会う。その後幸夫は、大宮の家に通い、幼い子供たちの面倒を見ることになる。
そう、この夫婦、冷え切っていたんです。
というか、幸夫(本木雅弘)が冷え切らせている。
編集者が家を訪れたとき、夏子(深津絵里)が、夫のことをペンネームの「津村啓」ではなく、「(衣笠)幸夫君」と呼ぶことに対して文句を言うシーンをみてみましょう。
幸夫「じゃあ、連続試合出場数の世界記録を作った野球選手と同じ名前で生きてみろよ。俺はあの名前でいる限り、永遠に鉄人衣笠祥雄のまがい物でしかあり得ないの」
夏子「あなたは野球選手じゃないし、そういう凄い人と同じ名前に生まれついた人だってたくさん」
幸夫「(遮るように)じゃああんたも、そういう名前に生まれついたことがあるんですかってことなんだよ。ねえあるの?」
夏子「・・・ないけど」
幸夫「ないよな、無ければ一生わからない」夏子「・・・」
幸夫「同情しなくていいから。どうせ俺は自分のこともまともに受け入れられない男だよ」
いや〜拗れてますね。圧倒的に拗れている。
鉄人野球選手・衣笠と比較して、勝手に自分を卑下する。ただ、プライドが高いからペンネームの鎧で自分をガード。しかも、彼は不倫までしてるんです。
初っぱなからダメ男トリプルコンボ(自信ない・プライド高い・不倫)を繰り出してきます、幸夫さん。
この会話を最後に妻・夏子は事故で亡くなりますが、その後も
妻の遺骨を抱えて車に乗りながらも、マスコミの持つカメラを気にしてミラーで髪型をチェック
告別式後「津村啓 かわいそう」「津村啓 才能」「津村啓 不倫」「津村啓 愛人」「津村啓 嘘」とネットで検索。
、、、とてつもない自意識の塊なわけです。
妻の死よりも、社会の眼を気にしてしまう。
それがこの物語の主人公、幸夫なのです。
一般論として、他者は
「自分を映す鏡」
であると言えます。
私たちは、他者とのコミュニケーションの中で自分の見え方を知り、理解します。
主人公・幸夫も当然、他者を通して自分をみます。彼の場合、普通の人以上にその傾向が強いと言えるでしょう。
幸夫は「小説家兼タレント」として、より大きな社会を自分の映し鏡にしている人物。彼は懸命に社会の眼に耐えうる「自分」を作り上げています。ただし、作れるのは表面上だけ。見栄えを良くし、上っ面の言葉で自分のイメージを作ることくらいしかできません。
だからこそ、幸夫は妻・夏子を攻撃します。
なぜなら
近しい存在である夏子は、顔前に突きつけられた「手鏡」のようなもの
だから。
近しい人の前では、「自分」を作り上げるために塗りたくった「何か」は意味をなさず、醜いありのままの姿を見せつけられます。
幸夫は、鏡を毎回拳で殴り、その鏡は少しずつひび割れていきます。
自分の醜さを映し出す鏡が目の前から消え去ったとき、きっと彼の中には少しの安堵さえ生まれたはずです。
だから、彼は妻の死を悲しめない。
ただ、そんな自分を認めたくない。
そして彼は、現実逃避を始めるのです。
○ダメ男は、逃げる。
同じくバスの事故で妻を亡くした大宮陽一(竹原ピストル)は、二人の子供を抱えるも、トラック運転手の仕事は激務。彼の事情を知った幸夫は、家での留守番を申し出る。
幸夫にとって子育ては「現実逃避」に過ぎません。
妻・夏子の死と向き合うことは、またもや自分の醜さを証明することに繋がりかねない。だから「子育てをする親ごっこ」をすることで、現実逃避を始めるのです。
幸夫は、親ごっこをうまくこなします。
社会の眼を意識し「自分」を作ってきた幸夫にとって「親ごっこ」をすることはそれほど難しくなかったのかもしれません。
同時に、慕ってくれる子供達と関係を築く中で、居心地の良さも感じるようになっていたのです。
しかし、それも長くは続きません。
彼は、大宮家と近づきすぎたのです。
妻の死を受け容れられず、ずっと気持ちを引きずっている大宮陽一。
彼の姿を間近にみる幸夫は、「妻の死と向き合わない自分」を否応なしに突きつけられるのです。
幸夫は、近すぎる「鏡」をまたも殴ってしまいます。
幸夫は大宮家で居場所を失い、家を飛び出します。
追いかけてきた陽一に向けて吐いた言葉が、これ。
幸夫「僕はね、夏子が死んだとき、他の女の人と寝てたんだよ。バスごと崖から落っこちて、夏子が凍った湖の中で溺れてるとき、夏子のベッドでセックスしてたの!やりまくってたの!・・・君とは全然違うんだよ!」
○ ダメ男が、他者に思い至るまで。
幸夫のいなくなった大宮家はバランスを失い始める。大宮家の長男・真平は家事に追われ塾に通えなくなり、やがて精神的に追い込まれていった。父・陽一にまで暴言を吐いてしまう。その直後、陽一はトラックで事故を起こしてしまう。
ただ、大宮家で過ごした日々は幸夫にとって無駄ではありませんでした。
幸夫にとって、「鏡」でしかなかった他者。
しかし、子育てを通じて、徐々に幸夫は他者の「顔」を見るようになっていくのです。
特に陽一の長男・真平の存在は幸夫に大きな影響を与えます。
真平はいわば「リトル幸夫」。
もちろん、彼はトリプルコンボ幸夫のように拗らせてはいません。
ただ、真平は母のいない家を守ろうと必死で大人になろうとしています。
小学6年生という「子供」の自分とのギャップに苦しみながら、「大人」になろうともがく真平の姿は、世間の目に晒されながら醜い自分を隠し、キャラを作り上げる幸夫の姿に重なります。
幸夫は、「リトル幸夫」(真平)を「トリプルコンボ幸夫」(幸夫・津村啓)にさせまいと奮闘するなかで、真平にしっかり向き合うようになるのです。
父・陽一に暴言を吐いたことを後悔する真平に、幸夫はこう語りかけます。
幸夫「自分を大事にしてくれる人を、簡単に手放しちゃ行けない。見くびったり、貶めちゃいけない。でないと、僕みたいになる。僕みたいに、愛していいはずの人は誰もいない人生になる」
幸夫は、他者と接していても、そこに見えているのは自分の顔でしかなかった。
だから、他者を攻撃し、愛していいはずの人を失ってしまったのです。
幸夫は、涙を流しながらノートに文字を書き付けます。
人生は他者だ
ダメ男が、他者に思い至った瞬間でした。
○ ダメ男、小林の言い訳。
「人生は他者だ」
めちゃめちゃ重い言葉だと思います。
みなさんもないでしょうか?
近しい人の前では「ダメな自分」ばかり出てきてしまうように感じてしまうこと。
僕はめちゃめちゃあります。「こうでありたい、こうでなきゃいけない」という想いがあるのに、そうさせてくれない近しい人を攻撃してしまう。ダメなのは自分なのに。
そんなときこそ、その人の「顔」をしっかりと見ないといけないですね。
「人生は他者だ」
この言葉、全ダメ男は心に刻みつけましょう。
○ ダメ男のおすすめと予告。
「永い言い訳」が好きな人は、西川作品、全部観ましょう。
西川監督はダメ男を描かせたら随一の監督です。心の中にダメ男を棲まわせているとしか思えません。
特におすすめなのは
「蛇イチゴ」「ゆれる」です。
どちらも素晴らしい作品なのでぜひご覧下さい。
次回ですが、
「アイアムアヒーロー」
を取り上げようかと思っています。
最高のゾンビ映画なのでぜひこちらも観てくださいね!
それでは、また16日後!!!
(あれ、そういえば、ゾンビって自動ドア反応するのかな・・・)
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